topnovel > 02

novel

なんで私があんなところに…?
沢山の疑問符が浮かび上がって、あ、そうかこれが幽体離脱かとなぜか突然腑に落ちた。
そういえば初体験だなあと、この状況とそんな思考に自分で薄く笑う。そしてふと、横たわる体の向こうに何かが見えた。
「…え…人間…?」
いや違うこれはゾンビですか!?
デロデロとしたそれはゲームや映画で見覚えがある。そして間違いなく横たわっている私の方に近づいていた。
「ね、ねえちょっとあれ!!」
冷や汗をかきつつ、隣に立つイケメン騎士の袖を引っ張る。だってイケメン強そう。

イケメンは頼もしく私に頷いてみせると、私をひょいと脇に抱えそのままデロデロのいる方に投げ飛ばした。
「ーーーーっ!!?!?」
突然のことと宙を飛ぶ恐怖で叫び声も出ない。パニックのまま目の前にはもう一人の自分が迫る。
ぶつかる…!!
そう思ったが、衝撃はない。
恐る恐る目を開けると
「ひぃっ」
眼前に迫るデロデロ。
私は人生史上最高の速さで後ずさった。
「あ、ありえない……」
迫り来るゾンビと、この私を投げ飛ばしてくれやがった向こうの方にいるイケメンを交互に見る。私はどちらも敵だと認識しつつあった。イケメンはゾンビをやっつけてくれそうだけど私のこともやっつけてしまいそうだ。
(どうしよう!どうしようどうしようどうしよう!)

ゾンビはなおものろのろと私の方に向かってきている。魔法なんか使えないし銃なんか持っていない。
(っていうか身体元に戻ってる!)
――逃げるしかない。一瞬で判断し、素早く立ち上がり、一目散に逃げることにした。ゾンビはきっと追いついて来れないだろう。なにしろなかなか険しい森の中だ。
歩いているうちに擦り切れてなくなってしまうことを願う。

問題はイケメン騎士の方だ。筋肉隆々(想像)な彼ならきっとすいすいっと追いついてきてしまうだろう。なるべくイケメンの厳つい装備が引っかかって通りにくいような狭い道を選ぶ。時には木の根の下なんかも通ってひたすらに逃げた。
行き先なんかなにもわからない。願わくば、話の通じるまともな人と出会えますように!できればイケメンで頼む!


息が切れる。心臓がはち切れそうだ。
運動は嫌いじゃないけど日頃から運動なんてしていない私に突然の持久走は酷すぎる。
しかし、立ち止まれば死ぬと思えば案外体は動くもので。といってもやっぱりどこかで休みたい。茂みの中、変わらない景色でもうどっちの方向からきたかもよくわからない。
ふと、茂みの間に開けた場所が見えた。深い茂みの方を選んで走ってきたはずなのになんとなくそっちに足を運んでいた。
そこには小高く盛り上がった丘。便器。そして西洋騎士風の背の高い人。顔は見えないけれど背格好はさっきの人と同じように見える。
えっ、えっ…!?も、戻ってきた!?
でもそこに、あのデロデロはいなかった。
何をするでもなくただ便器の横に立ち呆けるイケメン騎士(おそらく)の光景は、どこからどう見ても奇妙だ。
だからといってこんなところで用を足しているところに鉢合わせしてもどうすればいいのかわからない。
彼は私に気づいていない。デロデロはどこに?

もう不安要素しかないので、やっぱりもっと遠くへ、別の場所へ逃げようと決意して、私は一歩後ろに下がった。そのときうっかり足で何かを蹴ってしまって
「ガアアアアン!!!」
と凄まじい音が鳴り響いた。
驚いて振り向くとそこにはなぜか金だらいが…
コントか!!
そしてその音で、便器のそばにいた彼がこちらに気づいてしまった。
目があった。ような気がする。
金だらいへの憤りもあったが、彼の視線の方が気になった。彼はじっと私を見ている。
そして、私が怯えきっているのを理解してくれたのか腰につけていた剣を地面において、両手を上げた。害をなす存在ではないことをアピールしているようだ。
(もしかしてまともな人?)
期待を込めて見つめ返すと彼に伝わったのかコクコクと頷いている。ああ神様!イケメンをありがとう!
高鳴る心臓と共に彼に向かって猛進する。
「あのあのあの、私トイレを流したらいつの間にかこんなところにいて、困ってるんですう!」
捲し立てるように言ったが彼はきょとんとしていた。あ。
「ゆーきゃんとすぴーくじゃぱにーず…」
再び絶望感。いや、でも。外国人に道を尋ねられた時!日本人ならどうする!?そう、ジェスチャー!身振り手振りがあるじゃないか!

to be continued...

< prev | next >

inserted by FC2 system